「俺、犬猫以外の動物ってあんまり見たことない」

そんなことを、らいぞー(犬:オレが拾ってきた)を撫でながら兵助がおっしゃったので、都内の動物園に連れていきました。



「おぉ、これが動物園」

看板を見上げる兵助は、その隣の家族連れのお子さんと同じくらい目から輝きを放っている。
そしていつの間にか首から双眼鏡を下げていた。
やめてくれ。ちょっと恥ずかしい。

「なんで?ここって動物を観察するところだろ?」

そんな学問的でお堅いところじゃないぞ。

「あっ、ほらハチあれ、象!」

ほら、ってオレはこの動物園には課題で何度か来ているから、もう知っているんだけど。
隣の兵助は双眼鏡を覗きこんでいた。
そんな恥ずかしい真似をしているのは今現在こいつしかいない。

「鼻すごいな」

双眼鏡のレンズを通した兵助の目のほうがすごいです。



こいつは、オレが同行していることを忘れているんじゃないか。
ってくらい、兵助はあちこち動き回り、オレを振り回した。

「きりん、まつげ長っ」
「らくだ、まつげ長っ」
「動物が臭いのは共通なんだなー」
「あ、あの猿、三郎と雷蔵に似てね?」

あ、それは分かる。
敷かれてるのが三郎な。

「なぁハチ、あの狼」

差し掛かった檻の奥の狼は、オレたち観客に見向きもしない。
まぁ、こんな檻の中で過ごす半生は、あいつには退屈過ぎるんだろう。
ふてくされる気持ち、分からないでもない。

「ハチ、口笛吹いて」
「オレが?」
「こっち向くかもしんないじゃん」
「はぁ」

何の根拠でそういうのか分からないが、口笛を吹いてやった。
するとたまたま、狼がこちらを向いて、こちらに歩いてきたので、兵助のテンションは本日最高潮に達したのだった。





「ハチの前世おおかみ?」
「なんで」
「髪が狼っぽい」

どーせタカ丸さんにも厳重注意を受けるくらい、髪ぼさぼさですよ。

ふてくされて見せると、兵助は子供っぽい笑みを見せた。そしてアイスクリームをぺろんと食べる。
笑みに限らず、今日の兵助は全体的に行動が幼い。

「お前そんなに久しぶりなのか?」
「たぶん小3で行ったのが最後。さすがに高学年になったら家族で遊ぶとかもなかったしなー」
「いや、普通遊ぶだろ」
「うち厳しいからさ、受験勉強してたよ」


みっちり勉強生活を、持ち前の地頭とマイペースさと、勉強が苦ではない生活によって、悠々乗り切った兵助。
その後はオレらの高校の特進科に入り、ひょっこり名門国立大学に入学していた。
羨ましいやつだ。


今日はその勉強人生の反動が出たのだろうか。
兵助のテンションはまるで、小学生の餓鬼んちょそのものだった。


「いやーそれにしても今日は良く動物を見た」

象、馬、くじゃく、猿、きりん、らくだ、虎、ペンギン、狼…

記憶の限り羅列する兵助。
そこでオレは、ほとんど動物の記憶がないことに気づいた。
あれ?オレ今日何しに来たんだっけ?

「すごい!今日俺ら23種類も動物見たぞ!」

ほっぺにアイスクリームをつけた兵助が嬉々としてこちらに微笑みかけている。
オレにはお前が犬猫の類いにしか見えん。


「あ。」


急にきょとんとしたオレを、兵助は訝しげに見つめてくる。
気づいた。

「あ、いや、なんでも」
「ふーん」

兵助には隠す。
幸い、兵助の興味は目の前のソフトクリームにあった。






帰宅してから、兵助はさっさと風呂に入ってさっさと寝てしまった。
疲れが出たらしい。
リビングでぼんやりしているオレの足元に、どこから入ってきたのか、さぶろー(猫:たまの来客)がすりよってきた。
餌目当てだろう。


「なぁさぶろー、オレ今日兵助しか見てねー」

んなもん知るか、飯よこせ。

という猫パンチをスネに喰らった。
オレが吐き出した言葉は空気に拡散して消えた。







未知姉さんより!現パロ竹くくいただきました!!
ありがとうございますっ!