観にいった某舞台のパロです。
設定を落乱設定に強制的に変えているので、久々知が命狙われている設定になってます。苦手な方はUターンお願いします。あと、なんかもんじが熱血です。
八左ヱ門が若干弱いです。いろんな意味で。






















八左ヱ門は焦っていた。

自分の心臓の音が、後ろの人物に聞こえてしまわないか。

この身体の震えが、伝わってしまわないか。

この、焦りが、

「ハチ、どうした、まだ着かないのか?」

その声に、身体が過剰に反応する。

「何をそんなに驚いてるんだよ。お前がここまで連れてきたんだろう?『美味い甘味処があるから』って」

「ああ・・・そうだな・・・」

(確かに、俺はそう言った)

八左ヱ門の喉がゴクリと鳴った。

数刻前、突然兵助の部屋を訪れ、そう言って彼を外へと連れ出したのは、他ならぬ八左ヱ門である。

彼を連れて、ひたすら歩き続け・・・もうどのくらいになるだろうか。

『甘味処』には、一向に辿り着かない。

それも、そのはずだった。

「・・・なあ、八左ヱ門」

ふと足を止め、兵助が口を開いた。

彼の前を歩く八左ヱ門も、同じく足を止める。だが、後ろを振り向くことは無い。

そのまま、兵助は彼の背を見つめて、言った。


 

「懐に隠しているのは・・・毒虫用の虫笛か?」


 

ビクッと、八左ヱ門の肩が大きく震えた。

見つめられている背を、冷汗が流れ落ちる。

それでも、後ろを振り返ることは、無い。

「・・・狙いは、俺か」

返答は無い。

それでも、その身体が小刻みに震えていることは、すぐに見てとれた。

「誰に頼まれた?」

返答は、やはり無い。

「何も言わないのなら、俺にも考えがあるぞ」

そう言うと、兵助は懐へと手を伸ばし、苦無を取り出した。

「・・・八左ヱ門、もう一度聞く、誰に頼まれた」

彼は、振り向かない。

「八左ヱ門!」

「そんな大声出さなくても聞こえてる!!

兵助は、目を丸くした。

ようやく振り向いた八左ヱ門の瞳からは、涙が、零れ落ちていた。

「ハチ・・・」

彼と出会い、多くの時を共に過ごしてきたが、兵助は彼が、少なくとも人前で涙を見せるところを見たことが無かったからだ。

彼は、「竹谷八左ヱ門」という人間は、いつも太陽のように眩しい笑顔を振りまいて、周囲を明るく照らす、そんな人間であったから。

・・・では、今、自分の目の前にいる彼は、何だ?

彼は、何故、泣いている?

「・・・って、」

か細い声が、聞こえた。

「俺だって訳が解らないんだ!!!ただ、生物委員の後輩たちが捕まって、それで・・・俺に、俺に・・・!」

「俺の首を獲ってこい、とでも言われたのか」

八左ヱ門の顔が、青ざめていく。

「図星か・・・」

「・・・っ!!

八左ヱ門は、懐に手を突っ込み、小さな虫笛を取り出す。

すかさず、兵助は言った。

「お前は本当に甘い。忍たま五年目のくせに、殺気も気の迷いもだだ漏れでどうする」

本当は、とうの昔に気づいていた。

彼が、長屋の自分の部屋に入って来たときから、その瞳は揺れていた。

・・・八左ヱ門は、昔から隠し事の類が下手だった。

いつも、兵助だけでなく、三郎や雷蔵にも指摘されており、本人も反省はしていたようだが。

「おまけに、」

兵助は、目を細めて続ける。

「・・・その虫笛、特に強い毒を持つ虫用だろう?・・・相手を即死させるときに使うヤツだ」

せめて、苦しまないように。

その気持ちは、痛いほど伝わっていた。

「・・・っだって!」

八左ヱ門は、虫笛が壊れんばかりに拳を強く握り締めていた。

爪が皮膚に食い込み、血が滲み出ている。

「お前ってやつは・・・本当に甘いな」

自分が狙いということに、兵助はさほど驚いてはいなかった。

己の家の事情はよく解っていたし、これまでも学園外で何度か命を狙われたこともある。

だが、

「・・・お前を利用するとはな・・・」

その瞳は、怒りに満ちている。

「あいつら・・・一年どもの喉元に・・・小刀を、お、大勢で・・・孫兵は足をやられて、身動きが取れなくて・・・!」

「・・・今は、何処にいるんだ?」

「この先の・・・岬の小屋に・・・」

「岬の小屋」というのは、兵助もよく知っていた。

生物委員会は、その近くの林でよく虫たちの採集をしていたし、それについて行ったこともあったからだ。

(そうか・・・あそこか・・・)

兵助は、握っていた苦無を懐にしまうと、

「ハチ、とりあえずお前は急いで、先輩たちに応援を頼んでくれ、いいな?先生たちは何か会議をされていたから、先輩方に言った方が早い」

「え・・・」

「俺は、」


 

「ここで、待ってるから」


 

そう言って笑う兵助に、八左ヱ門は唇を真一文字に結んで頷いた。

「わかった・・・!」 

急ぎ学園へと駆け出すその姿を、兵助は完全に見えなくなるまで見つめていた。

やがて、その足音さえ聞こえなくなると、一言、ポツリと呟いた。


 

「・・・ごめん、ハチ」



風が、強く吹いた。
木の葉が舞い落ちる中、兵助の姿は、そこには無かった。

――――――――――――――――――――――――





「・・・何だ?」

潮江文次郎は、算盤の珠を弾くのを止め、部屋の扉を見やった。

「どうしました?潮江先輩」

田村三木ヱ門は、委員長のその言葉に、首を傾げる。

後輩たちはそろって床に倒れこんでおり、意識を保っているのは現在この二人しかいない。

徹夜三日目を過ぎたともなれば、当然のことであろうが。

かくいう三木ヱ門も、少しでも気を抜けばすぐにでも昇天しそうな状態である。

(本当に、よくこの人はこうも元気でいられるなあ・・・)

そんな眼差しで、目の前の人物を見ていると、当人は瞳をぎょろりと動かしながら呟いた。

「・・・足音が近づいてくる」

「え?」

足音、と言われ、三木ヱ門は床に耳をあてる。

「本当だ、これは・・・え?こっちに向かってくる・・・?」

足音は徐々に大きくなっていき、突然、部屋の前で止まった。

と同時に、勢いよく扉が開け放たれ、外の空気が流れ込んでくる。

「――――潮江文次郎先輩!」

「竹谷か、いったい何の用だ」

そこに現れたのは、肩で大きく息をし、額に汗を滲ませて立つ、竹谷八左ヱ門。

文次郎自身はあまり五年生とは接点が無いものの、生物委員会委員長代理である彼とは何度か顔を合わせており、認識はしていた(主に予算会議で)。

いったい、何用なのだろうか。

見ると、八左ヱ門の顔色は、文次郎が記憶しているものよりも遥かに青ざめていた。

「・・・何かあったのか」

何かしら起こったことは明白であったが、あえて問う。

八左ヱ門は、すっかり赤く染まった拳を握り締めながら、

「実、は・・・」









「生物委員が!?」 

三木ヱ門が大声をあげる。

事の状況を説明され、頭が混乱しているのだ。

チラリと横目で見ると、文次郎は腕を組んで目を閉じた状態だった。

「先輩、力を貸して下さい!」

ガバッと、竹谷は頭を下げた。

「し、潮江先輩・・・!」

「うろたえるな三木ヱ門、それでも会計委員かバカタレ」

「え・・・」

そう言うと、文次郎はゆっくりと立ち上がり、竹谷の元へと歩み寄る。

そして、頭を下げたままの八左ヱ門に、問うた。

「竹谷・・・、お前、久々知を一人にしたのか?」

「え・・・?」

おそるおそる顔を上げると、文次郎は相変わらず腕を組んだまま、こちらを見ている。

「ハ、ハイ・・・」

肯定した、その瞬間、視界の中で、「何か」が動いた。

それが文次郎の腕だと気付いた時には、

「へ?」

既に、忍装束の胸元をわしづかみにされた後だった。

「グッ・・・!」

思いきり引っ張られ、八左ヱ門は思わずうめき声をあげる。

間近で見る文次郎の眉間には、皺が深く刻み込まれていた。

「バカタレィ!!!!

怒声が、唾と共に吐き出される。

思わず、それを見ていた三木ヱ門が「ひいっ!」と小さく悲鳴をあげた。

呆然とする八左ヱ門に、文次郎は勢いざまに続ける。

「奴は助けを求めてお前を走らせたのではない!


 

お前を助けるために走らせたんだ!」


 

自分を、危険な目に遭わせないために。

血の気が、一気に引いた。

全身の力が抜け、文次郎が手を離すと、八左ヱ門の身体は床へ崩れ落ちた。

「五年にもなって、まだそんな事にも気付かねえのか!少しは頭を働かせろ!」

その怒鳴り声に、会計委員の下級生たちが何事かと起き上がる。

「田村せんぱぁーい、どーしたんですかぁ?」

「あ、いや、それが「三木ヱ門!」

説明すべきか迷う三木ヱ門に、文次郎は背を向けたまま言う。

「委員会は終わりだ。お前はそいつらを連れて長屋に戻れ、いいな」

「なっ・・・!先輩、私も「お前は来るな」

クルリとこちらを向き、頭を軽く小突く。

「今にも倒れそうな奴が無理するんじゃねえ。よく休んどけ」

「・・・ですが、先輩お一人では・・・」

「心配するな」

そう言うと、文次郎は開かれたままの扉に向かって言った。

「気配を消すのが下手なんだよ、このバカタレ」



 

「ほう、上手く消したつもりだったんだが・・・やはり人間ではなくただの獣か」

「おもしろそーな話してたな!竹谷の足音でかいからつい来ちまった!」



 

扉の影から突然姿を現した二人に、三木ヱ門は目を見開いた。

「た、立花先輩に、七松先輩も・・・!?

入口には、三木ヱ門もよく知る、作法委員長と体育委員長の二人が立っている。

流石は六年生、と、内心関心してしまう。

「誰が獣だ!・・・いいか、事は聞いた通りだ。久々知のことだ、どうせ一人で向かっているだろう。お前ら、無論」



「当然だろう」

「俺特攻隊長なー!」


 

「おい」

文次郎は、座り込んだ状態で呆けたままの八左ヱ門に向かって尋ねた。

「お前はどうするんだ。久々知が逃がしたその命、ここで守っとくか」

奴にとっちゃ、それが本望だろうが、と続ける文次郎の耳に、

「・・・です」

「あ?」

「・・・兵助を、助けたいです!!

その瞳には、普段の、六年生にも引けを取らない力強さが蘇っていた。

「・・・上等だ」

ニヤリと笑うと、文次郎は叫んだ。

「時間が無い!急ぐぞ!」



 

「「「おう!!!」」」











中途半端ですがここで止めときます;;;少しのシーンなのに思いのほか長くなってしまった・・・
この後マジで4人で殴りこみ(ちょ)に行きます。描写も頭の中にはあるのですが、いかんせんパロなので、これ以上は元ネタのネタばれになってしまうので;
もともとは新鮮組の話の舞台です。興味のある方はぜひどうぞ!!!(宣伝ですか

ちなみに、久々知の実家については実は何も考えてません←